パワーリフティングの試合では、いくら重い重量を挙げても審判のルールに従っていなければ「失敗」になります。
特に初出場の選手にとって、各種目の細かい規定を事前に把握しておくことは、本番での後悔を防ぐために非常に重要です。
この記事では、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの種目ごとの競技ルールを、JPA(日本パワーリフティング協会)およびIPF(国際パワーリフティング連盟)の公式ルールブックをもとに、わかりやすく解説します。
審判システムの基本
3名の審判による多数決制
パワーリフティングの試技は、主審1名・副審2名の計3名による多数決で判定されます。各審判が異なる角度から試技を確認するため、1名が見逃しても他の審判がカバーする多層的な仕組みになっています。
- 「成功(グッドリフト)」→ 白ランプまたは白旗
- 「失敗(ノーリフト)」→ 赤ランプまたは赤旗
3名のうち2名以上が白ランプまたは白旗を点灯させれば成功となります。
スクワットのルールと判定基準
試技の流れ
- バーベルをラックから外し、足を定位置に構える
- 主審の「スクワット」の合図(手の振り下ろし+音声)を受けてしゃがみ始める
- 規定の深さまでしゃがんだら立ち上がる
- 完全に直立して静止したのち、主審の「ラック」の合図でバーをラックに戻す
開始合図の前にしゃがみ始めたり、ラック合図の前にバーを戻そうとして失敗になるケースはとても多いです。
しっかり合図の指示に従って確実に成功を取りましょう。
スクワットの成功条件
深さの基準(最重要)
股関節のヒンジポイント(大腿部上面)が、膝の上面よりも低い位置まで下げなければなりません。いわゆる「ハーフスクワット」や「クォータースクワット」は、どれだけ重くても失敗です。
チーフレフリーのスタートの合図の後、選手は膝を曲げ、“B”ヒップジョイント部の大腿部
上面が“A”膝の上面より低くなるまでしゃがむこと。
その他の成功条件
- 挙上中にバーが下落しないこと
- 膝を完全に伸ばして完全な直立姿勢で終了すること
- 足の位置を試技中に移動させないこと
スクワットの主な失敗理由
| 原因 | 判定カード |
|---|---|
| 深さ不足(ハーフスクワット) | 1番(赤) |
| 挙上中のバーの下落 | 2番(青) |
| 足の位置の移動 | 3番(黄) |
| 開始・終了の合図を無視 | 3番(黄) |
ベンチプレスのルールと判定基準
ベンチプレスは三種目の中で最もルールが複雑で、失敗の原因が多い種目です。細かい規定を一つひとつ確認しましょう。
試技の流れ(3つの合図)
ベンチプレスにはスタート・プレス・ラックの3つの審判合図があります。これが他の種目にはない特徴です。
合図①「スタート」
バーをラックから外し、肘を完全に伸ばした状態で静止します。この状態で主審の「スタート(Start)」の合図(腕の振り下ろし+音声)を受けて初めてバーを胸に降ろし始めます。
合図②「プレス」
バーを胸で完全に静止させます。動きが止まったことを確認した主審が「プレス(Press)」と合図(腕の振り上げ+音声)を出したら、バーを押し上げます。
静止が不十分だと「プレス」の合図が出ません。胸まで降ろしたらバーをしっかり静止することを意識しましょう。
合図③「ラック」
バーを完全に押し切り、肘をロック(完全伸展)した状態で静止します。主審の「ラック(Rack)」の合図(腕の後方への振り+音声)を受けてからバーをラックに戻します。
ベンチプレスの必須姿勢
試技中、以下の5点接地が義務付けられています。
- 頭 → ベンチに接触
- 両肩 → ベンチに接触
- 両臀部(お尻) → ベンチに接触
- 足の裏 → 床または足台に全体的に接触
お尻が浮く・足のかかとが上がるだけで失敗になります。足全体が床につきにくい方は足台を使用すると安定しやすくなります。
81cmグリップルール
バーを握る両手の人差し指の間隔は最大81cm以内でなければなりません。最大グリップ(81cmいっぱい)で握る場合は、人差し指がバーの81cmマークを完全に覆っている必要があります。グリップが内側の場合はマーク接触の条件は適用されません。
ベンチプレスの主な失敗理由
| 原因 | 判定カード |
|---|---|
| 胸への未到達・静止不十分 | 1番(赤) |
| 肘が肩中央部まで下がっていない | 1番(赤) |
| 肘のロック(伸展)不完全 | 2番(青) |
| 挙上中のバーの下落・バウンド | 2番(青) |
| 臀部・頭の浮き | 3番(黄) |
| 3つの合図のいずれかを無視 | 3番(黄) |
| 81cmルール違反 | 3番(黄) |
| 足の位置の移動 | 3番(黄) |
特に「肘ルール」については2023年に追加されたルールです。
ブリッジが高い選手は肘が降りていない場合があるので、練習時に動画を撮ったりして確認しましょう。
バーが胸部または腹部まで下りた状態で両肘の下側が両肩中央と同じか、それより下げなければ
ならない。(下図参照)
ベンチプレスの危険なフォームについて以下で解説しています↓
デッドリフトのルールと判定基準
試技の流れ
デッドリフトはスクワット・ベンチプレスと異なり、開始の審判合図がありません。リフター自身のタイミングでバーを引き始めてOKです。
デッドリフトの成功条件
試技終了時に以下のフィニッシュ姿勢が求められます。
- 膝が完全に伸びていること
- 肩が後方に引かれている(後傾している)こと
- 直立姿勢が確認できること
この姿勢が確認されると、主審から「ダウン(Down)」の合図(腕の振り下ろし+音声)が出ます。合図を受けてからバーを地面に降ろします。
日本独自のルール(重要)
JPA国内大会では、バーをコントロールせずに落下させた場合は失敗となります。これは日本独自のルールです。
「バーはプラットフォームに静かにコントロールして降ろす事、コントロールして降ろす意思が無い選手は日本国内独自のルールとして”失敗試技”とする。」
引用:日本パワーリフティング協会ルールブック2026
バーが手から離れたり、ドスンと落としたりするのはNGです。必ずバーをコントロールしながら降ろしましょう。
デッドリフトの主な失敗理由
| 原因 | 判定カード |
|---|---|
| 膝の伸び・肩の返りが不完全 | 1番(赤) |
| 大腿部に乗せて支える「あおり動作」 | 2番(青) |
| ダウン合図前にバーを下ろす | 3番(黄) |
| バーのコントロールなし落下(国内のみ) | 3番(黄) |
失敗判定のナンバーカード
失敗時には、審判が以下の3種類のナンバーカードを提示することで失敗の理由が明確に示されます。試技後に赤ランプが点いたときは、どのカードが提示されたかを確認しましょう。
| カード | 色 | 主な失敗内容 |
|---|---|---|
| 1番 | 赤 | スクワット深さ不足 / ベンチの肘の下がり/ デッドリフトのフィニッシュ不完全(膝・肩) |
| 2番 | 青 | 挙上中のバー下落 / ベンチの肘ロック不完全 / デッドリフトの大腿部での支持(あおり) |
| 3番 | 黄 | 合図無視 / 足の位置移動 / ベンチの臀部・頭の浮き / デッドリフトのコントロールなし落下 |
まとめ:三種目ルール比較表
| 項目 | スクワット | ベンチプレス | デッドリフト |
|---|---|---|---|
| 開始合図 | あり(スクワット) | あり(スタート) | なし(自己判断) |
| 終了合図 | あり(ラック) | あり(ラック) | あり(ダウン) |
| 合図の数 | 2つ | 3つ | 1つ |
| 深さ・位置の基準 | 股関節が膝より低く | 胸または腹に静止 | フィニッシュ直立姿勢 |
| 特有の規定 | 足の移動禁止 | 81cmルール・5点接地 | バー落下禁止(国内) |
コスチューム等に関するルールが心配な方は以下をチェック👇️
最後に
パワーリフティングのルールは複雑に見えますが、「審判の合図に従う」「規定の動作を完成させる」「コントロールして終わる」という3つの原則を押さえれば、大きなミスは防げます。
本番前に各種目の流れを頭の中でシミュレーションし、練習でも合図を意識した試技を繰り返すことが大切です。審判はルール違反を探しているのではなく、選手の挑戦を正当に評価するために存在しています。自信を持って試技に臨みましょう。
試合を意識した練習のタイミングやピーキングについて詳しく知りたい方は以下を参考。
※ 本記事の規定情報はJPA公式ルールブック(2026年版)およびIPF Technical Rulebook 2026に基づいています。ルールは改訂されることがありますので、出場大会の最新ルールブックを必ずご確認ください。







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