ベンチプレス

ベンチプレスのフルギアとは?初心者にわかりやすく解説【ノーギアとの違いも】

「ベンチシャツを着るだけで100kg上乗せできる」——フルギアにそんなイメージを持っていませんか?

結論から言うと、それは半分正解で半分間違いです。確かに装着次第で100kg近い上乗せも可能ですが、その「装着する」こと自体がフルギア最大の壁です。

私自身、14歳から15年間トレーニングを続け、全国大会・世界大会で優勝もしてきましたが、初めてフルギアシャツを着た時はバーを胸まで下ろすことすらできず、シャツの硬さに完全に弾き返されました。それくらい、ノーギアとは別物のスポーツです。

この記事では、フルギアとは何か、どんな装備でどんな技術が必要なのか、競技経験者の視点を交えて解説します。読み終わる頃には、フルギアの「本当の難しさ」と「魅力」が見えてきます💪

フルギアとは?ノーギアとの違い

まずはノーギアとフルギアの基本的な違いを整理しましょう。

項目ノーギア(クラシック)フルギア(イクイップド)
装備シングレット・ベルト・リストラップ等専用のベンチシャツを着用
重量自分の筋力そのままノーギア+自分の体重〜100kg前後の上乗せも可能
難易度通常トレーニングの延長高度な技術・長期の訓練が必要
競技人口現在の主流熟練者中心・根強い支持層あり

ノーギアは普段のトレーニングに近いスタイルで、自分の本当の筋力が試されます。一方フルギアは、硬質なベンチシャツの反発力を活用することで、通常では考えられないほどの超高重量を扱えるスタイルです。

💡 実例:私の場合、ノーギア記録180kg(83kg級)に対し、フルギア記録は270kg。その差は90kgで、体重以上の重量がプラスされている計算です。

ベンチシャツとは?種類と特徴

フルギアの核心は「ベンチシャツ(ベンチスーツ)」という特殊な装備です。硬い素材でできており、バーベルを胸に下ろす際の反発力を利用して重量を助けます。

種類特徴代表製品
シングルプライ1枚生地。IPF(国際パワーリフティング連盟)公認タイタン社(カタナ・F6・フューリー)
マルチプライ生地を重ねた多層構造。背中が開いている。IPF非公認団体で使用インザー社製品など
バンドシャツベンチシャツにスーパーラム(補助器具)を組み合わせたスタイル。反発力が最大級。IPF非公認ベンチシャツ+タイタン社「スーパーラム」の組み合わせ

💡 補足:スーパーラム(Super Ram)はそれ単体ではベンチシャツではなく、胸部に装着するスリングショット型の補助器具です。これをベンチシャツと併用することで「バンドシャツ」と呼ばれる構成になり、IPFでは使用できません(Titan Support Systems)。

シャツは市販品をそのまま使うのではなく、自分の体型に合わせて縫い縮める(詰める)作業が必要です。この調整次第で効果が大きく変わります。

フルギアの技術的な難しさ

フルギアは「着るだけで重量が上がる」ほど簡単ではありません。私自身、初めてベンチシャツを着用した日のことは今でも覚えています。普段なら余裕で扱える120kgのバーが、シャツの硬さで胸まで降りてこないのです。

ノーギアで力に自信がある人ほど、最初の壁にぶつかります。具体的にどこが難しいのか、3つの観点で解説します。

① 圧や痛みに耐える力が必要

生地が極めて硬いため、バーを胸に降ろしていく程圧がかかります。この体にかかる圧は想像以上の痛みがあります。人によってはバーを降ろす最中に失神することも珍しくありません

② バーを胸に下ろすのが極めて難しい

上記の通りシャツが硬すぎるため、テクニックがなければバーベルを胸まで下ろすことができません。重量が不十分だったり下ろすコースがずれると、胸に届かず試技失敗になります。私の経験上、ノーギアMAXに対して20kg~40kg以上の重量を載せないと、シャツの反発に負けて胸まで下ろせません。「重い方が下ろしやすい」という、ノーギアとは真逆の感覚です。

③ 長期間の訓練が必要

初心者がいきなりシャツを着ても、ラックアップ(バーを棚から外す)すら困難です。私の場合、シャツを安定して使えるようになるまでに2ヶ月以上の専門練習を要しました。高重量を安全に扱うには、長期にわたる専門的な練習が欠かせません。

フルギアの安全性とリスク

フルギアはノーギアと比べて事故のリスクが格段に高い競技です。重量コントロールを誤ると、腕が不自然な方向に曲がったり、骨折に至るケースも報告されています(SBD Apparel Japan)。

  • 補助者は5名程度が推奨:メインのセンター補助に加え、左右それぞれ2名のサイド補助を配置するのが理想。最低でも計3名は確保したい所です
  • 十分な筋力が前提:シャツの反発力に体が負けると危険。一定以上の筋力なしに使用しない
  • 段階的に習得する:まずノーギアでフォームを固めてからフルギアに移行するのが基本

フルギア競技の歴史と現状

かつてIPF(国際パワーリフティング連盟)の国際大会は2011年までフルギアのみで行われており、ノーギアは国際的に日陰の存在でした。国内では2001年から全日本ノーギア大会(ジャパンオープン)が始まっていましたが、国際的な転換点は次の2つの大会です。

  • 🌍 2012年6月:第1回世界クラシックパワーリフティング選手権がスウェーデン・ストックホルムで開催(SBD Apparel Japan)
  • 🏋️ 2016年5月:第1回世界クラシックベンチプレス選手権が南アフリカで開催(SBD Apparel Japan)

この流れを受けて他競技のフィジカルエリートたちも参入し、2015年時点で国際大会のノーギア参加者(約1,600人)がフルギア参加者(約1,200人)を初めて上回り、ノーギアが世界的に主流となっています。フルギアは競技人口こそ微減傾向ですが、「人間の限界を装備と技術で突破するロマン」を求める熟練者から根強い支持を受けています。

まとめ:フルギアはベンチプレスの「究極形態」

  • フルギアは特殊なベンチシャツを使用し、ノーギア+自分の体重〜100kg前後の超高重量を扱える競技スタイル
  • シャツには「シングルプライ(IPF公認)」「マルチプライ」、シャツと補助器具を組み合わせた「バンドシャツ」の3種類がある
  • 安全に行うにはセンター+左右各2名・計5名程度の補助者が推奨される
  • 筋力が足りなければシャツの反発に押し潰されるため、真の筋力と技術が問われる競技
  • IPFのクラシック国際大会は2012年から、クラシックベンチプレス世界大会は2016年から始まった

フルギアはすぐに始められるものではありませんが、ベンチプレスの奥深さを知る上でぜひ知っておきたい世界です。まずはノーギアでしっかりとフォームと筋力を鍛えてから、ステップアップを検討してみてください。

フルギアに進んで良い人・まだ早い人(経験者の判定基準)

15年間トレーニングを続けてきた中で、多くの選手のフルギア挑戦を見てきました。私の経験から、こんな目安をお伝えします。

項目進んで良いまだ早い
ノーギアMAX体重の1.5倍以上体重の1.5倍未満
フォームブリッジ・脚の踏ん張りが安定試技ごとにフォームがブレる
練習環境常時3〜5名の補助者を確保できる単独練習がメイン
目的競技として記録を伸ばしたい「とりあえず重量を上げたい」

右側「まだ早い」に1つでも該当するなら、まずはノーギアで土台を作るのが結果的に最短ルートです。逆に「進んで良い」が揃っているなら、フルギアの世界はあなたに新しい記録の扉を開いてくれます。