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ベンチプレス競技には、装備なしで行うノーギア(クラシック)と、特殊なベンチシャツを着用するフルギア(イクイップド)の2種類があります。この記事では、フルギアとは何か、どんな装備を使うのか、初心者にもわかりやすく解説します。
フルギアとは?ノーギアとの違い
まずはノーギアとフルギアの基本的な違いを整理しましょう。
| 項目 | ノーギア(クラシック) | フルギア(イクイップド) |
|---|---|---|
| 装備 | シングレット・ベルト・リストラップ等 | 専用のベンチシャツを着用 |
| 重量 | 自分の筋力そのまま | ノーギア+自分の体重〜100kg前後の上乗せも可能 |
| 難易度 | 通常トレーニングの延長 | 高度な技術・長期の訓練が必要 |
| 競技人口 | 現在の主流 | 熟練者中心・根強い支持層あり |
ノーギアは普段のトレーニングに近いスタイルで、自分の本当の筋力が試されます。一方フルギアは、硬質なベンチシャツの反発力を活用することで、通常では考えられないほどの超高重量を扱えるスタイルです。
💡 実例:世界チャンピオンの児玉大紀選手の場合、ノーギア記録233kg(83kg級)に対し、フルギア記録は307.5kg。その差は約74kgで、体重相当の重量がプラスされている計算です(Open Powerlifting)。
ベンチシャツとは?種類と特徴
フルギアの核心は「ベンチシャツ(ベンチスーツ)」という特殊な装備です。硬い素材でできており、バーベルを胸に下ろす際の反発力を利用して重量を助けます。
| 種類 | 特徴 | 代表製品 |
|---|---|---|
| シングルプライ | 1枚生地。IPF(国際パワーリフティング連盟)公認 | タイタン社(カタナ・F6・フューリー) |
| マルチプライ | 生地を重ねた多層構造。背中が開いている。IPF非公認団体で使用 | インザー社製品など |
| バンドシャツ | ベンチシャツにスーパーラム(補助器具)を組み合わせたスタイル。反発力が最大級。IPF非公認 | ベンチシャツ+タイタン社「スーパーラム」の組み合わせ |
💡 補足:スーパーラム(Super Ram)はそれ単体ではベンチシャツではなく、胸部に装着するスリングショット型の補助器具です。これをベンチシャツと併用することで「バンドシャツ」と呼ばれる構成になり、IPFでは使用できません(Titan Support Systems)。
シャツは市販品をそのまま使うのではなく、自分の体型に合わせて縫い縮める(詰める)作業が必要です。この調整次第で効果が大きく変わります。
フルギアの技術的な難しさ
フルギアは「着るだけで重量が上がる」ほど簡単ではありません。むしろ非常に高度な技術が必要です。
① 着脱に補助が必要
生地が極めて硬いため、一人では着脱できません。練習・試合では複数人のサポーターが必要です。
② バーを胸に下ろすのが難しい
シャツが硬すぎるため、テクニックがなければバーベルを胸まで下ろすことができません。重量が不十分だったり下ろすコースがずれると、胸に届かず試技失敗になるリスクもあります。
③ 長期間の訓練が必要
初心者がいきなりシャツを着ても、ラックアップ(バーを棚から外す)すら困難です。高重量を安全に扱うには長期にわたる専門的な練習が欠かせません。
フルギアの安全性とリスク
フルギアはノーギアと比べて事故のリスクが格段に高い競技です。重量コントロールを誤ると、腕が不自然な方向に曲がったり、骨折に至るケースも報告されています(SBD Apparel Japan)。
- 補助者は5名程度が推奨:メインのセンター補助に加え、左右それぞれ2名のサイド補助を配置するのが理想(MBC POWER)
- 十分な筋力が前提:シャツの反発力に体が負けると危険。一定以上の筋力なしに使用しない
- 段階的に習得する:まずノーギアでフォームを固めてからフルギアに移行するのが基本
フルギア競技の歴史と現状
かつてIPF(国際パワーリフティング連盟)の国際大会は2011年までフルギアのみで行われており、ノーギアは国際的に日陰の存在でした。国内では2001年から全日本ノーギア大会(ジャパンオープン)が始まっていましたが、国際的な転換点は次の2つの大会です。
- 🌍 2012年6月:第1回世界クラシックパワーリフティング選手権がスウェーデン・ストックホルムで開催(SBD Apparel Japan)
- 🏋️ 2016年5月:第1回世界クラシックベンチプレス選手権が南アフリカで開催(SBD Apparel Japan)
この流れを受けて他競技のフィジカルエリートたちも参入し、2015年時点で国際大会のノーギア参加者(約1,600人)がフルギア参加者(約1,200人)を初めて上回り、ノーギアが世界的に主流となっています。フルギアは競技人口こそ微減傾向ですが、「人間の限界を装備と技術で突破するロマン」を求める熟練者から根強い支持を受けています。
まとめ:フルギアはベンチプレスの「究極形態」
- フルギアは特殊なベンチシャツを使用し、ノーギア+自分の体重〜100kg前後の超高重量を扱える競技スタイル
- シャツには「シングルプライ(IPF公認)」「マルチプライ」、シャツと補助器具を組み合わせた「バンドシャツ」の3種類がある
- 安全に行うにはセンター+左右各2名・計5名程度の補助者が推奨される
- 筋力が足りなければシャツの反発に押し潰されるため、真の筋力と技術が問われる競技
- IPFのクラシック国際大会は2012年から、クラシックベンチプレス世界大会は2016年から始まった
フルギアはすぐに始められるものではありませんが、ベンチプレスの奥深さを知る上でぜひ知っておきたい世界です。まずはノーギアでしっかりとフォームと筋力を鍛えてから、ステップアップを検討してみてください。